気がつけば愛でした




逃げるように部屋を出ようとする静奈の背中に冷ややかな声が突き刺さる。



「謝ってるってより、早くここから逃げたいって感じだな?」

「そんなことは!」



ありますけど!

そんなこと言えるわけない。

ジッと見てくる高柳の視線から逃げるように目を逸らす。



「あの…仕事に遅れてしまうので…」

「迷惑かけた相手が目の前にいるのに仕事?忙しいんだね、秘書課は。」


棘のある言い方に、玄関を開けようとした手が止まる。

高柳の小さな微笑みが怖かった。

マズい。怒ってる。

背中にヒンヤリとしたものが流れた気がした。



「こ…このお詫びはいずれ…」

「いずれ?」

「か、必ず…」



絞り出した声が段々と小さくなる。

だが、返ってきた言葉は意外なものであった。



「別にいいよ。」

「え!?」

「だから、別にいいって」

「そうですか!?すみません、それではこれで失礼しま…「ただ」



静奈の言葉に被せるように高柳が言った。



「…え?」



玄関にトンっと手をつく 。

静奈の目の前から光が奪われ、薄暗く影が落ちる。



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