棘姫

一気に静まりかえるあたしのグループ。


やばっ…





『由愛ちゃん…
さっすが、優しいー!!』

『本当!!
由愛ちゃんはあんな野上にまで優しいんだね』


あたしの心配を大きく裏切る反応。

みんなからキラキラした眼差しを向けられる。



さっきまで野上をあれだけけなしてた奴らが急に何言ってんだか。

あのセリフは…あたしを重ねてしまったから、自然と零してしまったのかもしれない。


理由がなくちゃ
援交なんてやらないよ…。





あたしが少し鬱な気分になっている間に話題は恋愛へ。


『そーいやさ、まぁた告られたらしいよ?あの4組の男子』

『あ、さっきでしょ?!
えっと、名前なんだっけ?』


あまり興味を示せないあたしは、適当に聞き流しながらお弁当を食べる。


毎日、毎日…
似た話題ばかり。

よく飽きないな。



『確か…恭哉君じゃなかったっけ?!』

得意気なマヤの一言に、ピタリと動きが止まった。



――恭哉。

それは、あの少女が口にした名前。

名前も知らないあの子はこの学校なの?




「ねぇ、マヤ。
その恭哉君…彼女いる?」

早速探ってみる。

『おっ!!
由愛、狙ってんの〜?
彼女はいないみたい。
告白もバレンタインもずっと断り続けてんのよ』


付き合ってはいない。

じゃ、あの子は誰?

一気に可能性も情報も途絶えてしまった。




『でもさぁ!!
なんか登下校は女と一緒だじゃない?』

『そうそ〜。
あの全然目立たない子!!
話しかけても反応薄いんだよね』

落胆しかけた時、みんなが次々に口を挟む。


あたしはその女こそが、あの少女だと直感した。




「ねぇ。
ちょっと、聞きたいことあるんだけど――」




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