レガートの扉


その手を右手と重ねると、思考能力のストップした頭の回復を祈るしかない。


「3年も経って…、今さら」

「でも、3年経ったから言えるんだけど。…まあ勝手な話だな。
でも、最後のチャンスだと思って勝負賭けた」


その答えでまたもや狼狽する私の肩へと手を置いた望に、再び向き合う形とされてしまった……。



大学時代の同級生の正紀くんを通じて知り合い、3年前まで付き合っていた私たち。


音大に通っていた望は、洗練された印象とは裏腹にとても気さくな人となり。


音楽センスや知識のまるでない私に、彼はよく自宅のピアノで優しい調べを聴かせてくれた。


たとえ生まれ育った環境や進む道がまったく違っていても、そんなことどうでも良いと教えてくれるように…。


彼と付き合うまでは苦手だった愛情表現もごく自然になれたのは、お互いを必要として愛し合っていたから。


就職して一緒に過ごせる時間が減ってもなお、それが変わらずに続いたのは小さな証。


だけど……彼がオーストリアで生活する決意を固めたのと同じく、私の部署異動が発令された。



――それが私と彼に生じた、不協和音のきっかけだった。


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