ワケあり!
2 桜の通り道

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 悪者の、織田ねぇ。

 とりあえずは、桜の実家の手がかりなるものは見つかったが、それはほんの入り口だけだ。

 まだまだ、雲を掴むような話だった。

 大体。

 桜の実家や、彼女の死の真相を知って、どうしようというのだろう。

 絹は、根本的に立ち止まっていたのだ。

 自分の過去にも関係のある連中だが、既に違う人間になった彼女は、関わり合いになりたくなかった。

「難しい顔をしてるわよ」

 いつの間にか、委員長が目の前に来ていた。

 HRが終わったようで、彼女は鞄とラケットを持っている。

 そういえば、テニス部だったか。

「雨なのに、部活があるの?」

 絹は、笑顔を作りながら聞いた。

 鬱陶しい梅雨だ。

「屋内コートもあるのよ」

 優しい答えに、絹はさすが金持ち学校と、心で呟いていた。

「高坂さんも興味があるなら、是非一度見学にきて欲しいわ」

 まだ、彼女の運動神経をあきらめていないような発言に、絹は小さく指で×を作る。

 そんな時だった。

「あーっちゃん」

 後部ドアから、お軽い男の声が飛ぶ。

「部長?」

 それに反応したのは、意外にも委員長だった。

 あーっちゃん?

 すごい呼ばれ方だと驚きつつ、ドアの方を見る。

「どうしたんですか? わざわざ」

 委員長が駆け寄る先には。

「渡部様だわ」

 ひそっと。

 近くの女生徒が呟いた――桃色の声で。

 うわぁ。

 この「うわぁ」は、絹の身体が引く響きだった。

 広井兄弟とは、質の違う美形が現れたのだ。

 軽やかでやわらかな茶色の髪と、やはりやわらかく整った甘い顔。

 絶対に、彼女がきれることのないタイプだ。
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