ワケあり!
「渡部ってのは、何者なんだ?」

 まさか、京にそんなことを聞かれるとは思っていなかった。

 部室での、プラネタリウム鑑賞の時だ。

 将には相変わらずくっついてるのがいて、京に隣に呼ばれたのである。

 反対隣には、やっぱり了がいたが。

「男子テニス部の、部長さんだそうですよ」

 将が、しゃべったのだろうか。

 兄に泣き付くタイプには見えないので、意外だった。

「ふ、ん…で、どんな知り合いだ?」

 んー。

 将から聞いた割には、変な質問だ。

「どうして、そんなことを?」

 絹は、墓穴を掘らないよう、気を付けて言葉を探した。

 渡部絡みには、地雷があるのだから。

「昨日、お前が泣かされた相手って、そいつだろ?」

 誰から聞いたのか。

 確かに、あの事件があったのは昼休みだったし、人が誰もいなかったわけではない。

 誰か目撃した人に聞いた、というところか。

「あの人…先生の親戚なんです」

 下手な言い訳をすると、彼が渡部に食ってかかりかねない。

 それだけは、避けなければ。

「先生の悪口を言われたんです」

 そう。

 攻撃されたのは、絹ではないと。

 そうしておけば、京に変な怒りを植え付けずに済む。

「先生絡むと、強気なお前さんがね…」

 笑いは、苦笑だったのか。

 顔が見えないので、よく分からない。

「いつも強気なわけじゃないですよ」

 弱みを握られたショックで、自分が崩れてしまったのが、今にして思えば悔しい。

 悪い人間など、山ほど見てきたというのに。

「あんまりウゼぇようなら…呼べよ」

 男気溢れる言葉に、絹は微笑んでいた。

 嬉しかったからではない。

「ありがとう…京さん」

 渡部絡みで京に助けを呼ぶなんて――絶対にありえなかったからだ。
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