ワケあり!
 もらったIDを首からさげ、絹は広井電気の本社に入った。

 地下駐車場からエレベータで上がってすぐの、役員用通路からIDをかざして入る。

 役員用とは言っても、視界の端には一般社員が、次々と出勤しているのが見えた。

「おっ、ぼっちゃん達! アルバイトへようこそ!」

 こっちに気付いた社員の一人が、大声で手を振る。

 豪快な人もいるものだ。

 と思ったら。

「今年は是非、動力部に来てください!」

「家電部を忘れないでー」

「これからはAV部の時代ですよーっ」

 ナニコレ。

 みな兄弟に向けて、自分の部署のアピールを始めるではないか。

 上二人は会釈を。下は、ぱたぱたと手を振って、声に応えている。

 エレベータに乗り込むまで、大騒ぎだった。

「えっと…なに?」

 ドアが閉まり、上昇が始まって、絹は聞いてみる。

 三人は、慣れた様子だった。
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