ワケあり!

歪む夏休み

『はろうー』

 携帯電話に舞い降りたのは――蒲生。

 いつか来ると思っていたが、ついに来た。

「いま、アルバイト中なので、またにしてください」

 ちょうど、お昼休みの終わりかけ。

 秘書控え室に帰ってきた頃だった。

『そう、思いっきり警戒すんなよ…ちょっと聞きたいことがあるだけだ』

 しかし、相手は自分のペースで生きる男。

『絹んとこの保護者が、渡部に何度か呼び出されてるんだが、ありゃなんだ?』

 えっ!?

 しばらく連絡を取っていない、ボスの行動を聞かれたのだ。

 しかも、渡部絡み。

『あ、渡部の親父の方な』

 すぐに追加情報が出る。

 親父と言えば、ボスの異母兄にあたる人だ。

 兄弟で仲良く、酒でも酌み交わそう――なんてありえない。

 そう思ったからこそ、蒲生も連絡してきたのだろう。

『お前の保護者が、科学者なのは分かった。前に石橋の下で学んでいたのも調べた…ただ、何の技術を今回必要としてるのか、わからねぇ』

 えっ、えっ?

 絹の考えが、追い付かない。

「石橋って?」

 一体、誰なのか。

 まずは、そこからだ。

『あぁ? 絹は、保護者のこと知らなすぎだろ?』

 そこからかよ、と突っ込まれる。

『織田のお抱え科学者…だった危ない爺さんだ。もう、おっ死んだがな』

 蒲生の言葉で、ボスの空白の時間が埋められていく。

 大学を卒業して、すぐにマッドサイエンティストになったとは考えにくい。

 ボスは、その石橋という人の元で、危ないことを学んだのだ。

 そこまで考えた時。

 午後の始業チャイムが流れる。

「また後で連絡するわ」

 絹はそう言うや、携帯を切った。

 多分、今頃蒲生が切れた電話に、毒づいているだろう。

 しかし、気になる。

 石橋という人はともかく、渡部父が動いたことだ。

 織田からの、正式な仕事の気配がした。
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