ワケあり!

戦乱

「そんな…馬鹿なこと…」

 真っ白になる意識を、絹は自分のほの暗い吐息で止めた。

 そんな馬鹿なことを、本当にして欲しかったわけじゃない。

 将が、知った顔でかき回すから。

 絹の火薬庫を、暴こうとするから!

『先に、先生に話つけてきてるぞ』

 携帯は、まだつながったまま。

 島村の言葉が、絹を揺り動かす。

 発信履歴は、確かにボスが先だった。

「先生は何て!?」

 島村は、個人的な恨みなど織田にはない。

 兄弟に加勢する理由もない。

 だが。

 だが、ボスが。

『手を出すな、と』

 絹に、一筋の光が見える瞬間だった。

 ボスと島村が参加しないのなら、兄弟を止めるだけ。

 それなら、なんとかなりそうだった。

 なのに。

『織田本家は、先生が始末をつけるから、本家だけは手を出すな、と』

 話が――引っ繰り返った。

 ボスまで!

 逆に言えば、本家以外は手出しをしてもいいと言ってるようなものだ。

 ボスが動けば、島村も動く。

 絹では、ボスは止められない。

 ということは。

 全員を、止められなくなったということだ。

『ああ、先生から伝言だ』

 呆然としている絹に、恐怖の一瞬が訪れる。

 今回の、最悪の自爆について、ボスから一言来る、ということだ。

 それこそ。

 クビを覚悟すべきだ。

 ボスの大事な、広井一家を思い切り巻き込んでしまったのだから。

 神妙に待っている彼女に。

『言いたいことは、ちゃんと私に言いなさい…だそうだ』

 駒に、何て無茶を言うのか。
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