ワケあり!

再会

 絹は、歩いて買い物に出る。

 家では、お嬢様扱いされるわけもないし、家政婦がいるわけでもない。

 明日からのお弁当の材料や、クッキーの足りない材料のためには、買い物だって行かなければならないのだ。

 しかし、それは嫌いなことではない。

 自由に外を歩ける幸せを噛み締めながら、絹は大通りに面したスーパーへと向かっていた。

 そんな彼女の側に、車が止まる。

「高坂さんじゃないか」

 オーマイガッ。

 絹は、この瞬間の記憶を、抹消したかった。

 この間、京にひねり上げられた男子生徒だったのだ。

「広井はいない、な…こんなところに、徒歩でどこへ?」

 絹は歩き続けているのに、それに車まで合わせてくる。

 しつこいな。

「買い物です、急いでますので失礼を」

「買い物? 歩きで?」

 大げさに驚いた様子だ。

 あの学校に通う子女に、あるまじきと思っているのか。

「急いでるなら、乗せていくよ」

 まだ、食い下がる。

 絹は、くるりと振り返り、嫌味なまでの笑顔を浮かべた。

「いいえ…結構です。すぐそこのスーパーですから」

 この男の素性は知らないが、歩いてスーパーに行く女など、お嬢様には分類しないような気がした。

「スーパー?」

 やはり、驚いている。

「アクティブなお嬢様だなぁ」

 うるさい。

 無視してもいいのだが、これからの学園生活で、絡んでこられるのも厄介だ。

「私は、あなたの思うようなお嬢様ではありませんから…もう、話しかけてこないでください」

 ぴしゃり。

 絹は、笑顔まで止めて――はっきりと、この男の介入を拒絶する。

 呆然としている彼を置き去りに、絹はスーパーへと入って行った。

 ついてこない、わね。

 後ろを振り返り、それを確認して、ようやく彼女はほっとしたのだった。
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