ワケあり!

原始の空

「今日から入部する、宮野彩花さんだ」

 部長の紹介で、ぺこりと頭を下げる恥ずかしそうな女生徒。

 ほんとに、動いてきたよ。

 絹は、呆れたような感心したような気持ちを拭えずに、彼女を見ていた。

 連れがいないところが、宮野の勇気を伺わせる。

 目が合うと、絹にむかって会釈してきた。

「あれ、絹さん…宮野さんと知り合い? 同じクラスでもないのに」

 隣にいた将が、不思議そうに聞いてくる。

「体育の時に、ちょっと…将くんも、よく名前知ってるわね」

 曖昧にごまかしながら、絹は逆に質問を返した。

「あ、体育は合同だもんな…オレは、中等部ん時に、一緒のクラスだったから。おとなしい子だから、話したことはあんまりないけど」

 よかったわね、個別認識はされてるわよ。

 絹は、心の中でそう呟いた。

 しかし、将をまんまとかっさらわせるわけにもいかない。

 ボスがご立腹になられるからだ。

「今年は、途中入部が多いなあ…また歓迎観測会を開かないと」

 部長の言葉をすりぬけて、宮野が近づいてくる。

 相変わらず絹は、将と了の両手に花の状態だった。

「あの、高坂さん…よろしくお願いします」

 名指しで、改めてぺこりとされて、絹は苦笑する。

 これは、宣戦布告ですか、と。

 天然で素直そうなところが、手ごわい気がする。

「私も入部して日が浅いから、お役にたてないかも」

 だから、絹は言葉を限定して受けとめた。

 入部についての『よろしく』のみ、に。

「あ、いえ、そんな…広井くんもよろしく」

 あわあわしながらも、次は頬を染めながら、将にあいさつだ。

「ああ、よろしく…星が好きなんて知らなかったよ、中等部から入ればよかったのに」

「中等部の頃は、夜に出してもらえなくて…」

「そっかー女の子は、心配だろうしね」

「そうなの…」

 話、はずんでるようじゃない。

 絹は唇の端を、一瞬ひくつかせた。

 今頃、さぞやボスはご立腹だろう。
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