アクセサリー
「おいらはドラマー……、ヤクザなドラマー……」
 玄太郎はスティックを手の中で回しながら鼻歌。いつもにまして上機嫌だ。玄太郎が不 機嫌になるときなんてあるのだろうか。
 午後六時。今日はスタジオを借りずに大学の教室でバンド練習をする予定だ。トモヒロさんと徳さんはまだ来ていない。
「なんかあった?」
 楽しそうな玄太郎に声をかける。
「うん、まあねー」
 くるくるっとドラムスティックをシャーペンのように回す。器用なものだ。たまに隆一はドラムスティックを借りて挑戦するのだが、うまくいった試しがない。
「ピカ子と調子いいの?」
 ピカ子というのは玄太郎の彼女のことだ。ピカ子は去年の学園祭でライブを見にやってきた。そのとき、ピカチュウの着ぐるみ姿だったのだ。なかなかおもしろい女の子がいるな、と話していたら玄太郎の彼女だと知り、驚いたのを覚えている。それから隆一たちの間でピカ子と呼ぶことになった。
「まあ、秘密だよねー」
 笑いを隠しきれないにやにや顔で玄太郎は言った。
「別に何でもいいけどさ」
「隆一もさ、あれとどうなったの? なんかセクシー系の彼女いたじゃん」
 隆一は急に顔がこわばった。
「ああ、タカミか……」


        *


 タカミとは今年の二月に新宿での合コンで知り合った。タカミはシックな花柄のワンピース、それに白いトレントコート、黒のブーツで合わせていた。きれいに巻き髪がかかったロングヘアーはとてもいいシトラスの香りがした。
店内は僅かな明かりでぼんやりと全体を薄いオレンジ色に照らしている。隆一はタカミの隣に座る。外で見たときのタカミよりも一層魅惑的に映った。タカミの香りは性欲を刺激する。
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