アクセサリー
 大人の色気だ。
 大学生には感じられない色気に、このまま口づけをして抱きしめてしまいたい気持ちになる。
「私、阿佐ヶ谷に住んでいるの。隆一君はどこ?」
「立川だよ。帰り道が一緒だね」
 タカミの質問に答えながら、こんな色っぽい女性がいたらなんと素晴らしいだろう、と考えていた。タカミには女の子ではなく、女性という表現が適切だ。しかし、ただ容姿に見とれただけではない。タカミは他の女の子たちと少しだけ違って見えた。明るくふるまっているけれど、あまり人が好きじゃないように見えた。周りの調子に自分を合わせて、 無理に気持ちを盛り上げているような印象を受けた。
「隆一君ってギター弾けるんだー」
 タカミは水滴のこびりついたビールのグラスをほほにくっつけた。タカミのほほが少し濡れる。
「たしなむ程度だけど」
 隆一はタカミの濡れたほほを見つめた。酔っているのだろうか。
「へえー。すごい今度聞かせてね」
「ライブをやるときは誘うよ」
 隆一はタカミに興味津津だった。舐めまわすようにタカミを眺めていた。
 容姿の品定めもさることながら、隆一はいつものくせでタカミの性格や気持ちの詮索をはじめた。
「あっはっは。ウケる!」
 タカミは笑った。こぼれる笑みから一本だけドラキュラのような八重歯がのぞいた。
 隆一は、やはりタカミが周りに合わせて笑顔をつくってはしゃいでいるように見えて仕方がなかった。つまりキャラを作っているのだ。その偽りのキャラはずっと続くわけではなく、たまに見せる表情はどこか哀しいものがあった。ほんの一瞬だが、おびえたような目になるときがある。「あっはっは」と声を上げて笑うが、心の底から笑ってはいない。
笑いたくないからといって、始めから終わりまで伏し目がちにいれば、誰も相手はしてくれない。だから楽しそうなそぶりを見せて、相手をしてもらう。明るい女を演出して、男をひっかける。
 そんな自分に嘘をつく行為は決して楽しいものではない。タカミにもきっと当てはまるだろう。しかし、その行為に頼らざるを得ないタカミはきっと哀しいのだ。顔で笑って、心は無表情に、時にはしくしく泣いているのかもしれない。
 無理をしている姿を見て、隆一はタカミのことがもっと深く知りたくなった。
 タカミは隆一と同じでこの世界に期待でなく悲観している。そう直感した。
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