アクセサリー
 番号を交換したあと、彩乃といろんな話をした。リス顔だね、とか、ディズニーのキャラに似てるね、とか。 隆一は彩乃の容姿よりも、これから世界にはばたいていきます、まだ巣の中から顔を出したばかりのヒナです、というような彩乃の幼さがおもしろかった。もう少しからかってみよう、そう考えているとガラス越しにドラムスティックを持った大柄な男の姿が見えた。
 玄太郎だ。隆一は手を振る。
「……うちのドラマーがきたみたいだ。そろそろ行くよ。付き合ってもらってありがとう」
「いいよ。私もバイトまで少し時間あったし……、バンドがんばってね」
 彩乃はそう言って立ち上がる。
 そこに百八十三センチ、九十キロのひげ面で銀縁メガネ、短めの髪を金色に染めた玄太郎がやってくる。彩乃は玄太郎の大きな体に圧倒されるように、小さく頭を下げ、足早に立ち去っていった。
 
「あの子何? 彼女?」
「別に何でも」
 隆一はそっけなく首をふった。玄太郎は去っていく彩乃を目で追っていながら続ける。
「あんな急がなくてもいいのにね」
 カバンとドラムスティックをテーブルの上に置いた。
「怖がってんだよ」
 一見すると玄太郎は近寄りがたい。大柄な体つきとひげ面は初対面だとまず間違いなく怖がられる。彩乃以外にも、今までに怖がって近寄らない人はたくさん見たことがある。
しかし話してみれば、少し間の抜けたところがあり、人なつっこい性格だ。隆一が気心許せる数少ない友達の一人なのだ。   
「もうちょっといたらいいのにね」
「だから、怖がってるんだって……」
「そうかなあ?」
 玄太郎は首をかしげる。それだけ体が大きくて、ひげ面で金髪なら普通怖いに決まっているだろう、と思う。話してみるとそんなことはないのだが。
「かわいい娘だったね」
「でもあの娘、あれだぜ……」
(処女だぜ)
 そう言いかけたが止める。なんだか彩乃を小バカにするようで気がひけた。さっきまで散々からかっていたのだが、小バカにするのはご法度のような気がした。
「……まだ子供だよ」
「ふうん……、彼氏いないのかな?」
 あわよくば俺が、玄太郎はそんな顔をした。
「さあねえ」
 適当なことを言って隆一と玄太郎はスタジオへ向かった。
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