アクセサリー
「ピカ子?」
「うん、そう迎えに行ってくる」
 玄太郎はそのまま駅へ向かった。
 今年もピカチュウの着ぐるみだろうか?

「ビジュアル系バンドの飢魔愚0です!」
 自分から〝ビジュアル系″と名乗るビジュアル系バンドがいるだろうか、と隆一は思った。ただ、ゴリメタルらしいMCには違いない。
「まずはこのナンバーから!」
ゴリメタルはマイクを口に密着させて叫んだ。キーンと耳の奥まで響く嫌なマイク音がした。そんなことにはおかまいなく、飢魔愚0の演奏が始まった。
 ドラムのカウントに続いてギターが鳴る。
 ジャーンジャン、ジャカジャカジャカ……。
 隆一はそのイントロに聞き覚えがあった。

「RAPE ME…」

 ゴリメタルの歌いだした瞬間に会場の空気が冷たくなったのを誰もが感じた。会場には観客が八人しかいないものの、互いに顔を見つめあわせながら「大丈夫なの?」という無言の問いをしているように見える。

「これは……」
 隆一は思わずつぶやいた。
午後一時十分。予定よりも少し遅れてライブが始まった。
飢魔愚0は隆一たちと同じで四人編成のバンドだ。ゴリメタルがボーカルを務めて、あとは一年生三人がギター、ベース、ドラムを演奏する。全員がビジュアル系好きではないが、音楽の嗜好は似ているようだ。
 ゴリメタルは顔を青白くメイクして、銀髪のかつらをかぶって、黒い細みのパンツに白いシャツを素肌に着ている。スタンドマイクに薔薇をくくりくけて、ビジュアル系バンド独特の雰囲気を演出していた。
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