アクセサリー
 彩乃は大学一年で、隆一は大学二年。しかし隆一は二年浪人したらしく現在二十二歳だ。
年齢のせいもあるのだろう。周りの学生よりも大人びて見える。大人っぽい人に彩乃は弱い。

「手、冷たいね」
 もう一度繰り返す。なんだか恥ずかしくなってうつぶせになった。枕に顔をうずめながら、今日の出来事を回想する。
 手を握られて視線をそらしてしまった。このままでは〝握られるのは迷惑〟だと思われるかも。そうではなくて好意を伝えないと、そう思って隆一に顔を向ける。
 隆一の顔を見ながら考えた。
 隆一の瞳にどう映っているのだろう? 
 あごにできたニキビをじっと見られているような気がする。メイクでしっかり隠すべきだった。
 手が震えているので、力を入れて抑える。うまく隠せただろうか。
 隆一にすべてを見透かされてしまうような、そんな気分になった。男性と付き合ったことがないことも、セックスをしたことがないことも、隆一の瞳に全部映っているのかもしれない。
「……隆一君も冷たいよ」
 何か会話をしないと。頭はフル回転したが、こんなセリフしか思い浮かばない。
 隆一は握った手を離す。彩乃の手はその場に置き去りされたまま、どこにいたらいいのか分からなくなる。力なく拳を作る。引っ込めようか? その場に置いたままにしようか? 迷子の子供みたいに行き場が分からくなった。
「あぁあ……」
もっと上手いことできなかったろうか。ベッドの上で一人悔しい思いがこぼれる。

 隆一がなぜ急に話しかけてくれたり、番号交換してくれたりしたのかは分からない。なぜだが分からないが、彩乃はうれしかった。
 しかし、びっくりしたのはそのあと。

 
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