アクセサリー
「先に行って様子見てくるから、ちょっとここで待ってて」
 玄太郎はそう言って先に行く。
 このラウンジで隆一に初めて手を握られた。あの日と違って今日は三人ほどほかに学生がいる。彩乃は緊張してきた。でも、顔に出してはいけない。隆一があんなに浮かない顔をしているから。自分までそんな顔をしてはいけない。彩乃はそう自分に言い聞かせた。
ガラス越しに玄太郎が隆一に何か話しはじめたのが見えた。 

「……おう」
 隆一は玄太郎に声をかける。
「待った?」
「いや……、話って?」
「実はさ、俺の大事な話ももちろんあるんだけど」
 玄太郎は隆一の前に座る。いつになく真剣な顔をしている。
「大事な話って、前に言わなかったやつ?」
「そう、それそれ」
「聞かせてくれよ」
「その前にさ、なんで浮かない顔してるわけ?」
「……それはいいだろ?」
 隆一は顔をしかめる。触れられたくない、そっとしておいてくれ。そう思った。
「……彩乃ちゃんも浮かない顔してたよ」
「……え」
 隆一は彩乃の名が出るとドキっとして体が熱くなった。急に目が泳ぐ。必死で動揺を隠そうとする。
「……彩乃が何で?」
「聞いてみたらいいじゃん。そこにいるから」
玄太郎が後ろを向いて手招きすると彩乃がやってきた。
 彩乃だ……。
 思わぬ彩乃の登場にどうしていいか分からなくなった。足を組みなおしてみたり、あごに手をそえてみたり。顔の向きとか座り方とか何もかもがぎこちなく感じた。そうこうしている間に彩乃は近づいてくる。
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