アクセサリー
 隆一は思い切って、そう言った。
「え……」
 彩乃は眉をよせて、心配そうな顔をする。せっかくのきれいな顔がくもる。
 彩乃は隆一を本気で心配している。隆一は彩乃のことなんて何も考えていなかった。むしろ彩乃の気持ちに気付きながら、相手にしなかった。
 愛の意味なんて分からない。
 そう悩んでいた隆一だったが、彩乃がしてくれることが愛につながるような気がした。
〝大好き〟と〝愛する〟の違いなんて分かりはしない。分かりはしないが、その謎のカギが彩乃にあるような気がした。
熱いものがこみあげて、のどが痛い。声を出すのもつらくなる。
「……俺は……なんか逃げてた。彩乃の気持ちも分かってるくせに……」
 隆一はうつむかないように、彩乃と視線をそらさないように言った。
「そんな……、私もはっきりしないから、こんなふうになって」
 彩乃はテーブルに前のめりになって言った。
「……日をあらためて会わない?」
「……うん」
 心が痛い。それは自分のことを心から心配してくれる彩乃に対しての申しわけなさだ。今までの自分の行動の戒めの如く心がずんと重くなっている。胸のなかにいっぱいの砂利をつめられたような気持ちだ。
 このまま、何もしないわけにはいかない。今こそ、自分と向き合うときではないだろうか、そう思った。
< 79 / 86 >

この作品をシェア

pagetop