アクセサリー
18
 十一月十一日、日曜日。
 少し前まで、ぽつりぽつりと雨が降っていた。今にも泣き出しそうな曇り空ではあるが、どうやら雨はひとまず落ちついたようだ。彩乃は傘を折りたたんでバッグにしまう。
 新宿サザンテラス。小田急サザンタワーの前に着く。
「ここで会おう」
 隆一にそう言われた。
 十一月にしては暖かい日が続いていたが、もうすっかり寒くなった。冷え症気味の彩乃にとって完全につらい季節に突入する。
時刻は午後四時半。
 まだ光らないイルミネーション。新装開店のドーナツ屋さんに並ぶ大行列。待ち時間は一時間四十分と看板に書いてある。あの並んでいる人たちってそんなに待つんだ、と感心する。
 彩乃は白い息をふうっ、とはく。すっかり息も白い季節になってしまった。
 なんだろう。これから隆一と会うのになぜだか落ちついている。今までは緊張して仕方がなかったのに。
隆一にどんなことを告げられようとも、すべて受け入れよう。
「早いね」
 声がして、振り向くと隆一がいる。彩乃はマフラーに首をうずめて、
「うん」
と、うなずく。にこっと笑う。今日は自然に笑えただろうか。
「寒いね……、そこ入ろうか?」
 隆一は小田急サザンタワーの隣にある『トラベルカフェ』を指さした。
「うん」
 彩乃はうなずいた。二人は黙ったまま、『トラベルカフェ』に入った。
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