身代わり王女に花嫁教育、始めます!
『無理です。騙せるはずがありません!』  


必死で断ろうとするリーンにみんなが口を揃えて説得した。 

この時代、一国の王女たるものそうそう人前に姿は見せない。レイラー王女の容姿も公表している訳ではないので、クアルン王国の人間は知らぬだろう。

とくにクアルンでは“目”以外、女は全部覆い隠すくらいなのだから……。


『その目が一番の問題なんです! 色が違うんですからっ』


リーンの抗議は、誰ひとりとして聞いてはくれなかった。



馬車の窓から熱気を含む風が吹き込んだ。

リーンは焼けた砂の匂いに胸がわくわくする。砂漠は繋がっていて匂いは同じはずなのに。なぜか、国境を越えた辺りから違って感じるのだ。


(やっぱり、お母さんの血かしら)


大公の宮殿は国の東部、森の中にある。だがリーンは西部の砂漠が大好きだった。彼女の亡き母アシャの出身が砂漠の部族だったせいかもしれない。

誇り高いベドウィンの中にあり、母は族長に逆らった。

認められぬ相手と通じて妊娠した母は部族から追放されたという。砂漠を離れて、ひとりでリーンを産んだ。部族名も父の名も明かさぬまま、母は逝った。

それは少し切ないが、『真実の愛と神の声に従ったのよ』そう言って笑った母をリーンは誇りに思っている。



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