身代わり王女に花嫁教育、始めます!
井戸の周囲にある木々はあらかた折れ、半数くらいに減っていた。元々根の張り具合が弱いため、砂嵐に巻き上げられ遠くに飛ばされたのだろう。

井戸は風圧で蓋が閉じる仕組みになっている。そのおかげで、これまで埋もれずにいたのだった。


そして、花嫁のためにしつらえた豪華な馬車は、見る影もなくなっていた。

その惨状は、岩に叩きつけられたことが容易に想像できる。


五つ岩のオアシスにサクル王は立っていた。

辺りには血なまぐさい匂いが漂う。そこかしこに引き千切られたような死体が転がっている。馬やラクダ、そして人間も。

生き残ったのはわずか数名。砂漠の宮殿から駆けつけた兵士たちが死体を検分して回る。


「申し上げます! バスィールの花嫁衣装を纏った女性の死体はありませんでした。それから、カリム様の死体も見当たりません!」

「――わかった。生き残った者で話せる者はいるか?」

「はっ! ただちに」


兵士は短く告げ、機敏な動きで走り去る。


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