ドッペルゲンガー ~怪事件捜査倶楽部~。
「持ってこなかったわ」

「はあ!?冗談ぬかすんじゃないわよ」

「本当に持ってこなかったの」

日吉の目を見つめると、日吉はカァ――として喚き散らした。

「ふざけんじゃないわよ!? 何よそれ! 早くもって来なさいよ! 本当にあんたって嘘つきなのね、金持って来たっていうのも霊感あるってのも、み~んなウソ! みんなを騙すそのテクニック教えて欲しいものだわ!」

すると日吉は私を鋭い目つきで睨んだ。

「警察に行くのは簡単だけど、そんなに簡単に楽になると思わないでよね!! アンタの秘密、みんなにバラしてやる!! せいぜい苦しめばいいのよ!!」

そう言って、嘲りの笑みを浮かべる。

「アタシを騙しといてタダで済むと思わないでよね!!」

――日吉の高笑いって、とても耳障り。

私を嘲笑う声の中で、私はふとそんな事を考えていた。
そのまま、脱力するように心が止まったのを感じた。
黒い虫が私の腕に巻き付いて、私の腕は自然にポケットの中の、果物ナイフへと伸びた。
そのままそれを取り出し、折りたたみ式のそれを、起こす。
足にも黒い虫が絡み付いて、私は走っていた。

 ブスッ ――

鈍い音がすぐ下から聞こえると、すぐに

 ゲフッ!!

耳に障る音と、くさい鉄の臭いが耳の側で鳴った。

――あれ?

そこで、ふと我に返った。
小刻みに震える腕を引くと、ドサ と音を立てて、日吉が倒れた。
私は瞬きもせずに、頭は真っ白なままで、ほんの数秒、立ちすくんでいた。

「ううっ、ううっ」と唸ってうずくまる日吉を見て、私は、はっと我に返った。

(携帯!消去しなきゃ!)

ハンカチを取り出して、手をハンカチで覆うと日吉の胸倉を掴んだ。ジャケットの内ポケットを探ると、日吉に強く腕をつかまれた。
驚いて強く振り払う。胸が苦しい――鼓動が煩い。

(はやく、はやくしなくちゃ!)

日吉が先程とは反対に倒れてうずくまる。スカートのポケットを探ると、硬い物に行き当たった。

(携帯だ!)

すぐに取り出すと、それは白い携帯電話で、私は一気にほっとする。
するとその時!

「今日は残飯も残ってねぇなんて、ついてねぇなぁ」

鼓動が一瞬止まった。
声の方向を見る。
影が、見える。

――誰か来る!!

急に、身体が大きく震えだした。
そして日吉の胸倉を放し、私は一目散にその場を後にした。
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