先輩へ… 16年後のラブレター
「会社に入ってからさ、車でりえちゃんの事務所を探したんだ。

構内に転職したときに言ってたでしょ。

構内の奥の方だって。」

「覚えてたの?」

「覚えてたよ。たぶんここにいるんだろうなって思いながら、通ったんだ。」

「岸壁のところの事務所だよ。

回りが原料の山だから、事務所の壁が真っ赤なの。」

「うん。すごかった。」

そんな…。

探してたなんて…。

偶然会えるかもって思って?

知らなかったよ…。

「何でその時に迎えに来てくれなかったのよー」

迎えに来てくれてたら、今頃は… もしかしたら…

「だって未練がましくてカッコ悪いじゃん。」

そんなことないよ…。

本当は、自分から会いに行けない分、水野先輩が迎えに来てくれるのを待ってたの…。

まさか構内にいるとは思ってなかったから、全然気が付かないよ。

「私たち、もしかしたら構内で会ってたかもね。」

「うん。そうだね…。」

昼夜を問わず稼働してる工場。

昼間には何千人もの人が仕事してる構内。

ものすごく広いけれど狭い所で、先輩は私の事務所を探し当てていた。

構内に就職したよって、教えてくれればよかったのに…。
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