c-wolf
「伽羅がいなくなった!?」
威濡は顔をしかめて琥露をみた。
珠羅は額をおさえてしかめっ面だ。
「おい、琥露。冗談はやめろ。珠羅も呆れてるだろ」
しかし、琥露は首を横に振った。
「本当だ。なんなら見に行くか?部屋はもぬけの殻だ。何もない」
「兄さん…………」
珠羅はふぅ、と長いため息をついた。
威濡は自分の頭を押さえた。
「どうなってんだ……?いつ、どうやって誰が琥露を逃がしたんだ……?」
その時、昨日の出来事が思い浮かんだ。
もしかして…………、と思い、伽羅の部屋に飛び込んだ時、目にしたもの……。
「c-wolf…………」
赤で書かれたその文字は、体を震わせた。
「さっき調べてもらったが、これは血ではなかった。ただの赤の絵の具だった」
そのことにホッとしたのも一瞬だった。
「もしかして、伽羅は……」
「あぁ、c-wolfに連れて行かれた、としか考えられないな」
「兄さんは、c-wolfにとって、本当に必要な存在なんでしょうか?」
珠羅が疲れた顔でポツリとつぶやいた。
「気に入ったから、というのもあるかもな」
珠羅はゆっくりと伽羅の部屋に入った。
そんな珠羅をみて、威濡は素直に言った。
「昨日、俺の部屋にc-wolfが入ってきた」
その言葉に、二人が威濡を凝視し、疑惑の目を向けた。
「言いたいことは分かる。何で、お前等を呼ばなかったのか、なぜ、その場で退治しなかったのか……だろ?俺も今それを不思議に思っている。自分でも分からないんだ。だけど、そのときは無性に悲しくて、辛くて、頭がぼうっとしていて、なにもする気がおきなくて……、気がついたら寝ていた」
それを聞いた二人は、目線をc-wolfの文字に戻した。
「それか……自分から行ったか、ですね」
珠羅と琥露は威濡を怒ることもせず、話を続けた。
「自ら救いの手にすがりついた。そんな大型犬を、c-wolfが拾った」
そんな感じですか?と、ポツリと珠羅は呟いた。
そして、頭を押さえた。
「兄は何故、そんなことをしたのでしょうか……」
「まだ、伽羅が自分からc-wolfの手を取ったとは言えぬ」
「いいえ。言えます。私は、兄さんの妹ですから……。わかるんです」
ふいに、威濡は怖くなり、珠羅の手を思わず掴んだ。
珠羅が首を傾げ、無表情で威濡をみる。
「……珠羅は……、どこにも行かないよな?」
その声は、いつもの威濡ではなく、まるで6歳や7歳ほどの少年の声だった。
「はい。行きません」
その声に、珠羅が優しく答えた。