LOST ANGEL

「じゃあ何て呼べばいいの!?」

「名前で呼べばいいだろ!」

久々に大声を出してストレス発散になったが、まるで子供のケンカのようでムキになっている自分が少し恥ずかしかった。

「名前?…深沢慧斗?」

「そう」

「わかった。深沢慧斗はわたしのこと…」

「ちょっと待った。フルネームは変だろ」

「別に変じゃないと思うけど」

「長いだろ……」

というか、フルネームで呼ばれたくない。

「じゃあ、深沢慧斗が決めてよ」

えっ……

「何がいいの?」

「だから…、慧斗さんとか、慧斗くんとか?…慧ちゃん…かな」

自分で言っていて恥ずかしくなってくる。

「何照れてんの?」

「照れてねーよ」

慌てて背中を向ける。

すると、耳元に冷気が漂った。


「慧斗…」


甘い声が耳をくすぐる。

冷たかった耳が急にほてって真っ赤になった。

「わかりやすい男」

「バッ…バカにしたな」

言い訳も振り返ることも出来なかった。

「慧斗は、わたしのこと何て呼ぶの?」

「……自分で決めろ」

「じゃあ、杏奈様!」

ふざけんな…

「却下」

「お嬢様!」

「却下」

「姫様!」

「却下」

なんなんだコイツ。

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