LOST ANGEL
「酷い女だよね」
「…うん」
「そんな女との暮らしなんて最悪だった。だから、死んでよかったよ」
杏奈の目から光が消えていた。
「その…その人と四畳半のアパートで暮らしてたの?」
「そうだよ。物心ついたときから死ぬまで」
「辛かった?」
単純な質問しか思いつかない。
「別に辛くはなかったな。それが当たり前の生活だったし、生活のサイクルも反対で顔合わす時間も少なかったから」
「夜の仕事だったってことか。…その、お母さん」
杏奈はまたクスクス笑った。
気を遣っているオレの態度が面白いんだろう。
でも、例え自分がけなされていると分かっていても、杏奈が笑うと安心した。
「いわゆる水商売。あとは慧斗のお兄さんがやってるみたいな生活かな」
「帰ってこなかったりするん
だ?」
「だから楽だったよ。一人暮らしみたいで」
「そっか…」
それを言われると、もう何も聞けなかった。
「ごめんね。急に暗い話して」
「いや…」
「こんなこと、今まで誰にも話したことなかったよ」
「誰にも?」
「慧斗がはじめて」
「友達とかには、やっぱり言いづらいか…」
「てかね友達って呼べる友達も居なかったから」
杏奈は明るく言い切った。