LOST ANGEL

「酷い女だよね」

「…うん」

「そんな女との暮らしなんて最悪だった。だから、死んでよかったよ」

杏奈の目から光が消えていた。

「その…その人と四畳半のアパートで暮らしてたの?」

「そうだよ。物心ついたときから死ぬまで」

「辛かった?」

単純な質問しか思いつかない。

「別に辛くはなかったな。それが当たり前の生活だったし、生活のサイクルも反対で顔合わす時間も少なかったから」

「夜の仕事だったってことか。…その、お母さん」

杏奈はまたクスクス笑った。

気を遣っているオレの態度が面白いんだろう。

でも、例え自分がけなされていると分かっていても、杏奈が笑うと安心した。

「いわゆる水商売。あとは慧斗のお兄さんがやってるみたいな生活かな」

「帰ってこなかったりするん
だ?」

「だから楽だったよ。一人暮らしみたいで」

「そっか…」

それを言われると、もう何も聞けなかった。

「ごめんね。急に暗い話して」

「いや…」

「こんなこと、今まで誰にも話したことなかったよ」

「誰にも?」

「慧斗がはじめて」

「友達とかには、やっぱり言いづらいか…」

「てかね友達って呼べる友達も居なかったから」

杏奈は明るく言い切った。

< 47 / 89 >

この作品をシェア

pagetop