LOST ANGEL
「っ……」
呼吸が乱れる。
望んでいないことなのに、男の身体は何故反応してしまうんだろ
う。
「教えてあげるよ…慧斗くんのなくしたもの」
えっ…?
耳元で吐息混じりに囁く相原。
「あの日のこと、忘れてるんでしょ…」
なにが…?
「みんな知ってるんだよ…」
なにを…?
「慧斗くんはね…」
「由紀ちゃ〜ん!?」
兄貴のバカデカい声に相原は慌て起き上がった。
「お邪魔だった?」
兄貴は開いたままだった部屋のドアに寄りかかっていた。
「そんなんじゃありませんよ」
笑顔でとぼける相原。
「先輩帰るって言うから、一緒に送っていくよ」
「そうですか。ありがとうございます」
何事もなかったかのように立ち去っていく相原の背中に哀愁を感じた。
彼女にとってこんなことは特別じゃないんだ。
そう、本人の言ってた通り、どうでもいいことなんだ。
「慧斗、いつまでも転がってないで挨拶しろよ」
わざとらしく言う兄貴。
「ごめんね慧斗くん。またね」
振り返って笑う相原に少し恐怖を覚える。
「あっ…ああ、気を付けて」
とりあえず玄関まで見送る。
そしてドアが閉まった瞬間、オレはその場に座り込んだ。