LOST ANGEL
杏奈の地元の駅で下車する。
ついこの間来たばかりなのに、何故か懐かしかった。
ポスターの貼ってあったコンビニで水とツマミを買って、花火大会のある川原へ向かう。
「すごい人だね」
「ここはまだいい方だよ。都心の方は歩くのも大変だから」
「へぇ」
「迷子にならないようにしなきゃだな」
オレは杏奈に向けて手を差し出した。
一瞬戸惑う杏奈。
そう、幽霊の彼女と手をつなぐことは出来ない。
でも、形だけでも経験させてあげたかった。
杏奈の冷たい手がオレの不器用な手と重なる。
「うまく結べないね」
「大丈夫。ちゃんと握ってるよ」
冷たいはずの杏奈の手に不思議と暖かさを感じた。
温もりは心で感じるものなのだろうか。
「このまま歩くの難しいよ」
杏奈はサッと手を隠した。
杏奈には視覚しかない。
迷惑だっただろうか?
しょせんはオレの自己満足に過ぎなかったって訳だ…。
「見て慧斗。人が貫通していくから、わたし人ごみでも楽だよ」
「気持ち悪い絵だな…」
笑うことしか出来なかった。
