滴るワイン
滴るワイン
夏のうだるような暑さが身体を覆う。背中に汗が一滴流れた。
 彼は私の服を舐め回すように見た。今日は白のワンピースだ。化粧は少し濃いめで、爽やかさとのギャップを狙っている。そして私たちは最近オープンしたばかりのホテルへ向った。
「ホテルなんて久々ね」私が言う。
「そう?でもまあ刺激は必要だよね」
 彼が私の瞳を射抜いた。
 彼は妻がいて私の職場の上司でもある。関係が始まったのは一年前。それも暑い季節だった。彼は、刺激は必要、と言ったが私にとっては毎日が刺激である。どうやら私は不倫が好きらしい。
 それはいけないことだとはわかっている。でも抑えられない。その抑えられない衝動が私のフェロモンとなる。
 
 フロントで彼がキーを受け取り、エレベーターで部屋へ向った。
 部屋へ入るなり、少し休み、ワインを頼んだ。すぐにボーイがワインを運んで来た。
 彼がグラスにワインを注ぎ、私にも注いだ。お互いに一口、二口とワインを飲み、気づけば彼のワイシャツにワインが滴り落ちた。それは意図的にやっているようだった。みるみるうちにワイシャツが赤く染まる。
「好きだろ、こういう乱れた感じが」
 彼は計算高い笑みを浮かべた。
 私は何もいわず彼に近寄りワイシャツを脱がした。均整のとれた肉体が露になった。私は彼から離れようとした。しかし腕をしっかりと掴まれ、抱きしめられた。
「いい目だ。とろりとしている」
 彼は甘い声でいった。ワインの酔いもあってか唇を重ね合わせた。一回、二回、柔らかい舌がお互いタイミングよく侵入し絡み合う。
 彼に首筋を舐められ私は吐息を漏らす。ワンピースが綺麗に上から下へ滑空した。
「綺麗だ」彼は言った。
 私はワインを一口飲み、彼はまた意図的にワインを自分の肌へ滴らせた。
 不倫にしても、ワインを滴らせる光景にしても、私は汚れさに色気を感じるのかもしれない。
 彼は必要以上に胸を吸い、ときおりワインを飲み、私の全身を汚していった。
 既に二度目の絶頂を迎えたとき私は、彼の肌に滴るワインを舌で拭っていた。
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