ビロードの口づけ
 やってきた侍女にお茶を頼んでテラスに戻る。
 少しして侍女がお茶とお菓子を運んできた。

 ジンはカップを手に取り口をつけた。
 カップを持つ手指は細くしなやかで、その仕草も優雅だ。
 口を開かなければ、見とれてしまうほど素敵な人だと思う。

 クルミの視線に気付いたのか、ジンがカップを置いてニヤリと笑った。


「オレに見とれてないで話を聞かせてくれ」


 やはり口を開かなければいいのにとつくづく思う。

 少しムッとしながら、クルミは尋ねた。


「何を話せばいいのですか?」
「あんたが見た獣の特徴だ」


 獣を見たのは五年も前だ。
 あれ以来外に出ていないので、獣どころか他家の人にすら会っていない。
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