ビロードの口づけ
 侯爵邸の警備員と同じ制服を着たその男は、長身のジンが見上げるほどに上背がある。
 細身のジンとは対照的に体つきもがっしりしていて、腕や胸など服の上からでも分かるほどに、筋肉が盛り上がっていた。

 敵意をむき出しにした金の瞳がジンを見据える。


「ジン、なぜおまえがここにいる」
「それはこっちのセリフだ。警備員に化けて何の用だ」
「化けたのではない。オレはこの会社で働いている」
「そうか。オレもここでボディガードをしている。奇遇だな」

「女を守るなど、何の嫌がらせだ。オレたちが最高の女を捜している事は知っているだろう」

「探しているだけの奴は邪魔しない」


 ザキは忌々しそうに歯がみした。


「ここに極上の女がいるだろう」

「だったらどうする。獣王に献上するのか? おまえがそんな殊勝な奴だとは知らなかった」


 人を食ったようなジンの物言いに、ザキの顔は益々怒りで紅潮する。
 握った両の拳がブルブルと震え始めた。
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