ビロードの口づけ
 弾かれたように顔を上げ、腕をほどいたクルミは、ジンの姿を眺めて腕の傷に気付いた。
 まるで自分が傷ついたかのように、眉を寄せ目に涙を滲ませる。

 捕まえようとジンが腕を伸ばした時、クルミが再び首にしがみついた。
 そして自分からためらう事なくジンの唇に口づけた。

 予想外なクルミの行動に、ジンはしばし呆気にとられる。
 すぐに唇を離したクルミは目に涙を浮かべたまま、目の前で告げた。


「私の身体があなたを守るために役立つなら全部差し上げます」


 ジンはフッと笑い、左手でクルミを抱き寄せ、そのまぶたに口づける。
 クルミの涙に舌が痺れ、次第に身体が、傷口が熱くなっていく。

 まるで即効性の媚薬。
 酒に酔っているような、うっとりとするこの感覚に獣たちは病み付きになるのだ。


「今の言葉、後悔するなよ。撤回は受け付けない」


 返答を待たずにジンはクルミの唇を塞いだ。
 そして右腕の傷が癒えるまで、存分にその甘露を享受した。

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