ビロードの口づけ
 窓の外にはジンがいるはずだ。
 けれどこれまでジンの方からクルミを呼んだことはない。
 本当にジンだろうかと躊躇してしまう。
 すると今度はノックと共に声が聞こえた。


「オレだ」


 クルミは駆け寄り窓を開けた。
 窓の外にいたのはやはりジンだった。
 顔を見た途端、先ほど考えていたことが気になって、クルミは唐突に切り出した。


「ゆうべの獣は五年前に通学路で遭った熊のような獣ですか?」
「あぁ、そうだ」


 やはり思った通りだ。


「では、寝室に入ってきた黒い獣の方は……」


 矢継ぎ早に尋ねると、ジンはあからさまに不愉快そうな顔をした。


「知るか。そんな事より少しよこせ」


 有無も言わさずクルミを抱き寄せ口づける。
 クルミはおとなしく目を閉じた。
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