ビロードの口づけ
 兄はそれ以上の言葉を飲み込み、悔しそうに唇を噛んだ。

 重苦しい沈黙が部屋の中に充満する。
 それを打ち破ってジンが口を開いた。


「カイト様のおっしゃる事はごもっともです。私は今後侯爵家とよりよい関係を築いていくためにも無理強いをしたくありません。ここはクルミお嬢様のご意思を尊重したいと存じます」


 意外な提案に父も兄も呆気にとられたようにジンを見つめる。


「本当にそれでいいのか?」


 父が問いかけると、ジンは笑みを浮かべて頷いた。


「えぇ。もちろん、クルミお嬢様が拒絶なさったとしても他の女を要求したりはいたしません」

「そういう事ならクルミに委ねよう」

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