ビロードの口づけ
 母は子どもの頃から今まで、そしてこれからも、父に恋をしている。
 少女のように嬉しそうな笑みを浮かべ、父の事を語る母は本当に幸せそうだ。

 自分もこの人のように、ずっと変わらずジンを想い続けたい。


「お母様……」


 クルミは思わず母の首に腕を回して抱きついた。
 背中をポンポン叩きながら、母はクルミの髪を撫でた。


「あらあら、もうすぐお嫁に行くのに甘えんぼさんね」
「私、お母様のように幸せになるわ」
「えぇ、きっとよ」


 あの日ジンから漂った母の香りが鼻をくすぐる。
 今はそれが不安ではなく幸せの香りのような気がした。

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