ビロードの口づけ
 ジンにははっきり「嫌いだ」と言われた。
 彼の性格が歪んでいるのだとしても、嫌がらせをしたくなるほど嫌われているのだ。

 クルミの方もあんな意地悪な人は苦手だ。
 最初から気が合わないと思っていた。

 ジンの事を思い出すだけで気が落ち着かない。
 けれど嫌いだと言えないのはどうしてだろう。

 ふとあの夜のキスが頭をよぎった。
 あのキスのせい?
 クルミにとって、男の人と唇を重ねるキスは初めてだった。
 思い出すたびに胸の奥がギュッとなって鼓動が早くなる。

 けれどジンにとっては獣の血が極上の女の唾液を求めているだけなのだ。
 それで思い至った。
 ジンがクルミをいじめて泣かせるのは、クルミの涙を舐めるためだ。

 だからいつも泣いているクルミを抱きしめ、まぶたに口づける。
 そして舌先で涙をぬぐう。

 その優しい仕草に、少しは罪悪感を覚えているのかと思ったが、とんでもない勘違いだった。
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