ビロードの口づけ
 引きずるようにしていた後ろ足も、しっかりと踏ん張っている。
 驚異の快復力に目を見張る。

 獣はクルミを見下ろして、もう一度顔を近づけた後、ベッドから飛び降り、あっという間に窓から姿を消した。

 程なく、使用人と共にやって来た両親が、部屋の中に入ってきた。
 窓辺に残る血だまりを見て、母が小さな悲鳴を上げる。
 ベッドの上にも獣の残した血の足跡がついていた。

 父が血相を変えてベッドに駆け寄る。
 いつもは沈着冷静な父が、これほど取り乱したのは初めて見た。


「クルミ、何があった? ケガは?」
「黒い獣が窓から入ってきたの。大丈夫。顔を舐められただけだから」


 父は一瞬不安げな表情を見せたが、すぐにクルミをきつく抱きしめた。


「よかった。無事で」

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