ビロードの口づけ
 あまりに理不尽な気がして、クルミはジンの腕を掴み、顔を背けながら抵抗した。


「やめてください。人を呼びますよ」


 ジンが動きを止め、クルミのあごを下からすくうように掴んで上向かせた。
 至近距離で見つめる琥珀色の瞳に吸い込まれそうな気がする。

 スッと目が細められ、口元に冷酷な笑みが浮かんだ。
 この表情は知っている。
 庭に現れた獣を仕留めた時のものだ。


「呼んでみろ。こんな姿を人に見られてもかまわないなら」


 言われてハタと自分の姿に気付いた。
 ブラウスを引き裂かれ、下着の胸が露わになっている。

 こんな姿を人に見られるのも恥ずかしいが、それで妙な噂が立てば両親や兄にも迷惑がかかる。

 クルミは唇をかんでジンを睨んだ。
 勝利の笑みを浮かべたジンが、首を少し傾けて顔を近づけてくる。
 クルミがギュッと目を閉じた直後、唇が重なった。
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