ビロードの口づけ
 昼間にこれほど心安らぐ時間を過ごしたのは久しぶりだ。
 しばらく熱中している内に刺繍は完成した。

 時計を見ると中途半端な時間だ。
 これから何か別の事を始めれば、また熱中して時間を忘れてしまいそうな気がする。

 そんな事になるとまたジンが探しに来て、どんなお仕置きが待っているか想像しただけで怖い。

 学習終了の時間には少し早いが、クルミはジンを呼びに行く事にした。

 一旦部屋に戻り刺繍を置いてジンの部屋を訪れる。
 扉をノックしたが返事はなかった。
 声をかけながら恐る恐る部屋を覗いてみる。

 部屋の中にジンの姿はない。
 まだ寝室にいるのだろうか。
 自分が行っていいのか迷って足が止まる。
 すると奥の部屋からうめき声のような声が聞こえてきた。

 具合が悪いのかと心配になり、早足で寝室に向かう。
 扉が薄く開いていた。
 その向こうから声が漏れている。
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