Raindrop
「……失礼します」

そう水琴さんに言って、彼女の返答を待たずにその細い手を掴んだ。

水琴さんと新郎の視線の間に割って入り、無表情に新郎を見る。

そうして何の感情も表すことことなく、ただ、無言で彼に会釈をした。それが最善だと思った。

新郎は少しだけ戸惑うような顔をしたけれど、すぐに傍らにいる花嫁の視線に気づき、優しそうな笑みを浮かべて会釈を返してくれた。

「……和音くん?」

同じように戸惑う水琴さんの声を背中に聞き、しかし彼女を振り返らずに、そのまま手を引いて歩き出す。

「和音くん……?」

少しだけ歩いてからかけられた二度目の呼びかけに、僕は空を仰いでから水琴さんを振り返った。

「雨が降ってきますよ」

「え?」

「僕、雨には敏感なんですよ。外でヴァイオリンを弾くことが多いので。ほら、空が暗くなってきた。どこか建物の中に避難しましょうか」

「……ええ」

きょとんとした顔の水琴さんに笑いかけ、しばらく歩いていくと教会の裏手に出た。

そこに『見学自由』と書かれた札が下がっていたので、水琴さんと、追いかけてきた花音と拓斗も一緒に、開け放たれた木製の観音扉から教会の中へ入っていった。


数分もしないうちに辺りは暗くなる。

そして土砂降りの雨が降り出した。



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