Raindrop
「いや……なかなか、距離を測るのが難しいな、と思って」

明らかに水琴さんは何かで悩んでいる風なのに、なにも言葉をかけることが出来ない。

目上の人へ対する遠慮。

自分が子どもだからと、無意識に踏まれるブレーキ。

だんだんと心の奥に沈みこんでいく澱が、重くなっていく。

「なんか良くわかんねぇけど……お前、どうしたいの?」

「え?」

「前に言ってたじゃねぇか。プライベートなことにまで興味ねぇって。……今はそうじゃねぇってこと? 踏み込んでみたくなったのかよ」

「……いや、僕はただ、心配を……」

「それが“興味ある”ってことだろ? 興味ねぇヤツの心配なんかしねぇよ。俺の知らねぇところで勝手に頑張れよ、ってカンジだよ。でもそうじゃなくなったってなら……それは“興味ある”んだよ。お前ん中で、ただの先生じゃなくなったんだろ?」

そう、響也に言われて。

ああそうか、なんて……今頃納得している自分がいた。

それは恋愛感情とか、そういう甘いものではないのだけれど。

僕の中で水琴さんは先生としても、人としても尊敬するべき対象で、だからこそあんな風に泣くのを必死に堪えている姿を見たくない──いつもふわりと笑っていて欲しい、大切な女性になっているのだということに気づいた。

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