Raindrop
「水琴さん、大丈夫ですか!?」

「うぅーん……だいじょおぶ~、ぜんぜん、だいじょおぶよぉ~」

道路に転がったまま、へにゃっと笑う水琴さん。

まったく大丈夫そうな転び方ではなかったと思うのだけれど、水琴さんは笑うばかり。

いつものふわりとしながらも凛とした強さを感じさせる笑みとは違う、へにゃっとした、どこか頼りない笑み。

……この人は本当に僕の知っている水琴さんだろうかと、疑ってしまう。


起き上がるのに手を貸すも、水琴さんはまったく力の入らない状態らしく、立ち上がらせることも出来なかった。

「水琴さん、僕の肩に手を回せますか?」

膝をついて、くにゃりとして力の入らない手を取り、そう言うと。

道路に寝転がったまま、水琴さんは僕を見上げた。

「和音くぅ~ん? どうしてこんな時間に、お外にいるのかしらぁ~?」

「……それは」

「だめ、ですよぅ~? けーさつに、つかまっちゃうぞぉ~?」

僕が掴んでいた手がするりと離れ、ぺちん、と力なく僕の頬を打った。

その後で何やら楽しそうに笑い出すものだから……どう反応したら良いのか分からなくなる。


──この人は、本当に僕の知っている水琴さんだろうか。

水琴さんが僕を『和音』だと認識している時点で、間違いなく彼女は水琴さんなのだけれども。

なんというか。

……何かが崩れていく音が聞こえる。

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