Raindrop
……こういうものだと思うことにしよう。

僕が勝手に水琴さんは“こうだ”というイメージを作り上げていただけだ。それを壊されたからと言って憤りを感じるのはお門違いというものだ。

そう自分に言い聞かせて水道を借り、ぎゅっと絞って水琴さんの足に乗せてみる。

けれどもこれではきちんと冷やせるのか心許ない。やはりアイスノンが欲しいと、冷蔵庫へ向かう。

「すみません、失礼します」

ぺこりと一礼し、キッチンの壁に綺麗に収まっている冷凍庫の扉を開けて……また閉めた。

今度は冷蔵庫を思われる扉を開けて……また閉めた。

「……水琴さん、貴女は一体、どんな生活を送っているんですか……」

何もない。

冷蔵庫の中には、本当に何もない。

かろうじてあったのは、ミネラルウォーターのボトルが一本だけ。

何故リビングの床にはこんなにも物に溢れているのに、肝心の冷蔵庫には何もないのか。

彼女が最近痩せたように見える原因の一端が見えた気がした。



この家には役に立ちそうなものが何もないので、来る途中に見えたコンビニへ向かう。

果たしてコンビニに湿布や包帯の類が売っているだろうか、と思いながら……走る。

ひやりとした秋の夜に、額や背中にじわりと汗を滲ませながら、走る。

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