Raindrop
「水琴さん」

名を呼んで、振り返った彼女の腕を掴み。

軽く引いて抱き寄せた。

花のような香りが、ふわりと鼻腔をくすぐる。

その香りと先程の触れるだけのキスのおかげで、あのときの記憶が鮮明に蘇った。

「こんなものでは、“あいこ”にはなりませんよ」

柔らかな耳朶に唇が触れる、そのギリギリのところで囁いてから、赤くなっている白い頬に唇を寄せた。

甘い香りがするな、と。

あのときと同じことを思う。

「か、和音くんっ……」

僕の腕から逃れようと身をよじる姿も、あのときと同じ。

逃げようとする腰を捕まえ、首から後頭部にかけて添えた僕の手が、逃さないと阻むのも同じ。

唇で唇をなぞるようにしたキスは、あのときはひんやりと冷たかった。

冷水を含んだ唇も舌も温度を失くしていて、朦朧としていた頭にも火照った身体にも心地よかった。

けれど今はあたたかい。

窓硝子から外の冷えた温度を吸い取ってしまった身体には、心地よいあたたかさだった。

僕は冷たい記憶を辿りながら、あたたかな今を追う。

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