デュッセルドルフの針金師たち前編

40軒ノルマ

肌寒い夕暮れ時になつかしのミュンヘンのユースに着いた。
翌朝からすぐに仕事探しだ。今日はゆっくりと休もう。

さて翌朝いよいよハウプトバーンホフ(中央駅)から
カフェ、レストラン、ホテルと片っ端から
「イッヒメヒテアルバイト」(仕事ありますか?)

で行けば40軒以内に必ず仕事は見つかるという法則。
誰がつけたか知らないが、この40軒ノルマの法則
を信じて中央駅のキオスクからスタートした。

十軒目におじさんが中華料理店に決まった。
さらに十軒目にオサムも中華飯店に決まった。
ここで愛車を廃車しおじさんと別れることにした。
(おじさんは1ヵ月後に帰国した)

オサムの中華飯店は折りたたみベッドで住み込み可。
3食付で月500マルク(約5万円)。ただし
労働許可証なしなので不法労働になる。

40軒ノルマの法則は真実だったが、半年間の幸運を祈るのみ。
天涯孤独。金もなく、ほかにすることもなかったので、
日本から持ってきたドイツ語の会話本をぼろぼろになるまで読んだ。

サイモンとガーファンクルを聞きながら、1歩も外に出ずに
ひたすらモグラのようなアルバイト生活を過ごした。

小さなレストランだったので、中国人のシェフが一人とオサムが助手。
ドイツ人のウェイトレスが一人とトルコ女のまかないが一人。
オーナーの女主人はドイツ人で頑固そうで明るくない。

皆との会話も少なく全てブスッとした感じだったが、店は繁盛していた。
ある晩など瞬く間に全テーブルが満席になり注文が殺到。

30代の無口なシェフとにわか助手のオサムとで、一気に
30食分のメニューを造り終えたときには、さすがに皆で
「ブラボー!」と拍手したことがあったが、

その時以外は、口ひげのような産毛がある小太りのトルコ女に、
あそこ磨けここ磨けプツェンプツェン(磨け磨け)といじめられた。
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