デュッセルドルフの針金師たち前編

プロローグ3

「前略。黒川明夫へ。長い付き合いになりそうだ。
23年ぶりの再会。縁とは不思議なものだとつくづく思う。

お互いとにかく長生きしよう。さて先日の黒川からの質問。
あの頃何ヶ国回って一体何をしてたんや?さあこれからだの意味は何や?

と聞かれて即答できなかったのでこれはいい機会だと、ここ白樺湖で
わが来し方を振り返ってみることにした。

髪に白髪混じるともさあこれからだの意味は、
青春という第一幕はとうの昔に終わり、還暦間近の今
まさに第二幕最終場の幕がおりかかっていると感じる。

第三幕、人生最終章の幕開けとでもいった意味だ。
一緒に演劇やってたとき、俺はとっつけの大道具だったが皆は真剣だったな。

「どんなにごたごたがあろうとも、当日午後6時には幕が上がるんだ!」
と叫んで皆はよく言い合いのけんかをしてたよな。

俺は部外者だったがうらやましかった。あんなことで真剣になれるなんてと。
しかしよく考えてみると今なら分かる気がする。

その時はいまだ!さあこれからだ第三幕が上がるのは!・・・というような意味かな。
さてあの年1970年8月から旅に出た。10.21反戦デーのデモを最後に、
朝昼晩と必死にアルバイトをして金を貯めた。

それから丸3年半、旧ソ連から北欧に入り西ドイツを中心にヨーロッパくまなく歩いた。その後とにかく行った国まで含めると30カ国以上になる。

その間何をしていたのかということになると、ちょっと一言では書けないので
順を追って細かく思い出してみる。まあ、大変だろうがじっくりと読んでみてくれ。敬具」
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