デュッセルドルフの針金師たち前編

緊迫のディスコ

去年のクリスマスはミュンヘンでとても孤独な
一人ぼっちのホワイトクリスマスだった。
ビージーズを聞くと今でも涙が出てくる。

今年は、オサムとしてははなはだ不本意だが
マメタンにおんぶに抱っこ、いわゆるヒモだ。
彼女の面子をつぶさないように、いつもひかえめに、

無口で、じっと彼女の傍らに控えていた。
髪は肩までのびて口ひげを生やし、ジョンレノン風の

丸めがねをかけ、木靴を履いてジーンズのパンタロン。
顔青白くまるでカリスマ教祖だ。さて、

ノアポップでの仕事はテーブルのトレイをただひたすら、
一日中片付けるだけ。イエスキリストがおごそかに、民
の食したトレイとカップをひたすらもくもくと片付けている、

そんな感じで、それはそれで絵になっていた。
厨房の小林君が哲学者だったので、時折雲を掴むような
話をぽつぽつと二人で語り合ったりしていた。

小林君は眼差しの優しい仏様のような人だった。
神と仏がノアポップでいつもウィンクしあっていた。
長い長い冬の夜。年も押し迫ってきて、いよいよ、

クリスマスイヴの晩、コペン最大のディスコ。
東京館とノアポップ組みはフロア脇に陣取った。
数百人は入る大ディスコ。日本人もかなりいる。

アップテンポのハードロックで皆激しく踊りまくる。
ロッドスチアート、レッドチェッペリン、モンキーズ。
今はやりの強烈ディスコサウンドだ。

神も仏も時折厳かに踊った。
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