デュッセルドルフの針金師たち前編
宴たけなわ、突然音楽が止んで暗転。真っ暗になった。
すぐにスポットがフロアを照らし司会が英語でなにやら紹介。
最後にミスタージュードー、タケシサトーと叫んだ。

拍手と共にあの佐藤武が白のダブルスーツで、
パトロネアに腕を添えられて登場してきた。
三方向に手を上げて拍手が高まる。

次に二人はオサムたちのテーブルに近づいてきて
立ち止まった。そこはオサムのまん前だった。
思わず反射的にオサムは立ち上がってしまった。

しまったと思ったがもう遅い。きついスポットがオサム
と佐藤とに収斂されていく。拍手が収まっていく。
それはわずか数秒間の出来事。

オサムは木靴のおかげで佐藤より10cm上背があった。
佐藤は一瞬戸惑ってすっと右手を出した。
オサムはじっと佐藤を見下ろしてゆっくりと3度うなずき

おもむろに首を大きく横へ振った。司会がゴッドセイヴなにやら
と叫びオーッというどよめきと共に大きな拍手が起こった。佐藤
は思わず頭を下げて出した手を引っ込め拍手の中を去っていった。

スポットが彼とパトロネアの後を追う。再び強烈なサウンドが始
まり皆がフロアに飛び出してきて踊り始めた。イヴ再会だ。

オサムは冷や汗をかきながらどっかと椅子に腰を下ろした。
皆がvサインを送ってくれている。すごいサウンドだ。
マメタンが首根っこに抱きついてきた。

オサムはマメタンの手を引いてそっと店を出た。
寒い。すばらしい星空。凍てついた凍えるほどの
ホワイトクリスマス。マメタンはオサムの腕を取って

とても幸せそうだった。イエスタデーのメロディを
二人で口ずさみながら歩いた。その意味も深く考えずに。
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