デュッセルドルフの針金師たち前編
彼は厨房前の開きドアをいつも足でどーんと蹴って、
両手に銀盤を支えて入ってくる。いつもニコニコの
チャーリーとは対照的にむっつりでブスーッとしている。

ほんとにこいつはヤクザなのかもしれない。シェフの
上海アミンは長身で口の端にちょび髭があり、辮髪に
チャイナ帽をかぶれば清国の大臣様だ。陽気で仕事は

さすがの若きシェフだった。アミンアミンとチャーリー
が冷やかすと、フライパンを持っていつも二人でおっか
けっこをしていた。広州のサミーはサブシェフ。アミン

と同年代だが、ずんぐりむっくり丸顔で、どこかいびつ
だった。ドイツに来たばかりで言葉がまるで駄目。
「へーイ、リーベン(日本)」とオサムのことをこき使う。

ジェスチャーで指示をするが通じない時は、一人青筋を
立てて落ち込んでいたりする。あまり意地悪をすると怖
いので、オサムは何かと先回りして気を使ってやった。

一度このサミーと二人でディスコに行ったことがある。
給料日の翌日に三つ揃いのスーツを買ったサミーは、
「ヘイ、リーベン、デスコテ、デスコテ」とオサムに

声をかけてきた。何のことかと思ったら、今晩ディスコ
に行こうということだった。皆都合が悪くて仕方なく
オサムが付いて行くことになった。はじめはおとなしく

踊っていてくれたのだが、だんだんと調子に乗ってきて、
カンフーやら太極拳やら、最後は飛び上がってけりを入
れたりしてきたので、回りがしらけてきてしまった。

彼の手をすっと引っ張ってすばやく店を逃げ出した。
それでもサミーはオサムに深く感謝していた。
相当ストレスがたまっていたのだろう。
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