デュッセルドルフの針金師たち前編
週末にはオーナー夫妻や息子たちがよく手伝いに来ていた。
唯一まともに話ができたのは大学生の長男だった。
みんなの通訳を兼ねて日本の話をよくした。

正体不明の小柄な日本女性は彼らの友人で相当長く滞在して
いるみたいだ。たまにはアルトシュタット(旧市街)に
行ってナンパでもしてきたらといわれていたので、

初めての給料をもらった日の夜にユースの日本人を誘って
アルトに出かけた。旧市街は金都から歩いて30分くらいの
ところにある石畳の古めかしい中世風の町並みが残る所だ。

所狭しとレストランや飲み屋、ディスコ、バー、クラブが
数百軒以上も迷路のような石畳の両側にひしめいている。
中央部の十字路付近にはハイネの家とか騎馬の領主の銅像

とかがある。何度もピザ屋の前に立ち止まりピザ皮作りの
曲芸に見とれる。クリームチーズというヒッピーの
たまり場のディスコに入った。入り口付近でさかんに

マリファナやハッシシを売りに来る。ものすごいサウンド
とマリファナの甘い香りがむんむんだ。これは強烈だ。
ユースの友人はかなりたじろいだので早々と出る。

十字路の向こう側の割と上品なディスコ街へと向かった。
同じ石畳なのだが店の間口が広く心持ちゆったりしている。
人通りも少なくとてもいい雰囲気だ。ところどころで、

ギターを弾いたり、パフォーマンスをやっている。と、
十字路の一番かどのところで3人のヒッピーが、
路上に布を広げて何かを売っていた。よくみると、

馬蹄釘だ。馬の爪に打ち付ける馬蹄釘を針金でうまく
縛り止め、十字架を作り皮ひもが付いている。
ヒッピー好みの馬蹄十字架だ。

「グッドビジネス?」
と聞いたら。
「ノーグッド」
と答えた。

十字架以外にははやりのピースマークが多かった。
価格は一個20マルク。隣はフレンチ女性ヒッピー。
小石に絵をペインティングをして売っていた。

三人目は銀メッキの針金ネックレス。うろこ状の
ネックレスで不ぞろいで何か不器用な代物だった。
『俺だったらもっとうまく作るのに』

そう思いつつ。
総じて作品の割には高い感じがする。ひとつでも
売れればという思いなのだろう。

上品なディスコでビールを飲み、ナンパはで
きなかったけれどほろ酔いで、
気持ちよくユースの友と別れた。
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