デュッセルドルフの針金師たち前編

石松との出会い

翌日午後の休みにユースへいってみた。
入り口右脇の広場の軒下で、がっちりした
口ひげを生やした日本人が膝を丸め、

間に平たいかなづちを挟んで口に針金をくわえ
右手でハンマーを持ってこつこつと叩いていた。
非常に細かそうな作業だ。

その作業がひとしきり終わると、今度はペンチと
ニッパーを持って銀メッキの針金の丸い束を50cm
位に10本ほど切ってまっすぐに伸ばしだした。

さらに細かくカットし針金の端を丸めだした。
ニッパーは両端とも丸で先細になっており大小
2タイプある。日本では見たことがないものだ。

銀メッキワイヤーの束も日本では見たことがない。
「やあ」
「はい」

一瞥して彼が先に声をかけてきた。
めがねの奥は柔和な眼だ。顔は日焼けしていてまるで
肉体労働者。この作業とは全くマッチしていない。

「みてもいいですか?」
「ああかまへん」
大阪弁だ。針金を手にとってよくみると細い銅線の上に

分厚い銀メッキがかかっている。直系は1〜2ミリくらいか。
彼は器用にニッパーの先で丸めパーツがどんどんできていく。
10本できたところでそれをつなげていく。なるほど手作り

ネックレスチェーンだ。今度は別の直線パーツを丸めだした。
先端がさっき膝をかがめてハンマーうちをしていたところの
だろう、涙型にさきが膨れていて平らになっている。

涙型の反対側は丸められている。さらに両端が丸められた半円形
パーツがたくさんできている。どちらのパーツもサイズ違いがい
くつもあって後でうまく組み合わせてつないで通していくのだろう。

オサムはじっと彼の作業を見つめ続けている。
「どこからきたんや?」
「京都です」
「近くやな。わしは大阪の池田や」
「・・・・・・・」
「どのくらいこっちにいてんの?」
「1年半くらいになります」
「・・・・・・・」

「来てすぐ車を買ったんですが3日で壊れて・・・
そのあとコペンやミュンヘンでバイトして、
先月から川向こうの金都で皿洗いやってます」
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